「寒い」

「はいはい」


ふっと後ろから笑い声が聞こえ、抱きしめる腕の力が強くなる。


「明日、何時に送ろうか」


いつものように明日の事を聞いてきた彼にたまらなく寂しくなった。

彼の中の私は、意外と小さかったんだろうか。淡々と時が過ぎていくのが怖かった。

明日になればもう会えないのに。

自分で終わらせときながら、彼を責めるような気持ちになった。

貴方は寂しいと言った。確かに言ったのに。

まるで寂しいのは私だけみたいな、愛しているのは私だけみたいな。そんな感覚に押し潰されそうな寂しさを覚えた。



「一人で帰るよ。」

「だめ、危ない」


聞いてないことにして、私は言う。


「愛してるよ。貴方は」

「愛してるよ。多分、お前よりずっと。」

「嘘だ。」


「どこまでも疑い深いな。言葉にしないと気づかないなら何回でも言うよ。
愛してるよ、誰よりも。
今は、誰よりも愛しているお前を失うのが寂しいし悔しい。
こんなことなら人生をリセットしたいと思ってるよ。慎重に進んできた人生、その全てをリセットしたいと思ってる。罪深いよな、ほんとに。」


後ろから抱きしめてくれている腕の力がもっと強くなる。

私のうなじに顔を埋めて、弱々しく言う彼を愛しく可哀想だと思った。

私は醜い心を持っている。

きっと、貴方よりもっと醜い。