「ねえ」
「ん」
今も尚、背中を向けてタバコを吸っている彼に聞く。
「私がいないと寂しい?」
「そりゃあ、寂しいね」
「ほんとに?」
「ほんとに。」
彼が私に振り向いて微笑む。
深刻な私と余裕な笑みを浮かべる彼の温度差に少し寂しくなる。
「嘘つき」
「きつつき」
「やめて、さむいよ」
「あはは、ほんとにね」
「ねえ、寒いんだけど」
嘘つきは私だ。
暑すぎず寒すぎず、過ごしやすい季節にこの言葉は似合わない。
そんな私に彼はタバコを消し、何も言わずに後ろから抱きしめ、腕枕をしてくれる。
背中の温もり、自分よりひと回りもふた回りも太い腕の先に大きな手。
その薬指の指輪を回したり動かしたりしながら、全部、無くなっちゃえばいいのにと思った。
この指輪、彼の奥さん、彼と出会ってからの記憶、その記憶の中の私。
そして彼。
全部消えちゃえばいいのに、そんなことを思った。本日二回目、目頭がジンと熱くなるのを覚えた。涙を流すのは明日以降でいい。
まだ頑張れ私、心の中で、そう声をかけた。
自分のものになればいいのに、そう思えば思うほど彼を傷つけそうで壊しそうで怖かった。