えっ。
なんでそれを…。
「いやー、前にそんなこと言ってたし。
俺も、首里城一度は行きたかったんだよね」
確か前に、ボソッとそんな話をした気がする。
飛田がそんなこと覚えててくれたことは
意外だった。
「よし、行くか」
そう言って、飛田が2人分のチケットを買ってくる。
飛田に完璧に無視されて、凛の顔は
屈辱で一杯になっていた。
それを見ていい気味だと思う自分に
罪悪感を抱きながらも、飛田と門をくぐった。
「よく覚えてたね、私が首里城来たかったって」
「たまたま俺も見たかっただけだよ」
飛田は誤魔化すように言う。
やがて本殿の前に辿り着く。
真っ赤にそびえ立つその建物に、
身震いさえ感じられた。
「やっぱ来て良かったね」
「おう」
二人揃ってしばらく見つめる。
真っ青な空と、真っ赤な首里城が
目に焼き付けられる。
「甲子園、行こうね」
青空を見ていると、不意にそう思った。
飛田はちらっとこっちを見てから言う。
「当たり前だろ」
やっぱり来て良かったと思った。
凛には悪いけれど。
一周し終わって元の場所に戻ってくると、
雛乃たち女子がアイスを食べていた。
凛は、一人ふてくされている。
「遅い」
赤沢が言う。
「お前らのせいで俺、女子にアイス
おごらされたんだからな」
古谷も飛田を突く。
「悪い悪い」
すると、凛は開き直ったように意地悪な
笑みを浮かべて飛田に駆け寄った。
「飛田くーん!さっきは沙菜と二人だったわけだし、
国際通り、私と二人で回ろうよ」
ここまでくると、凄い女だなと感心する。
あんな風にされてもめげずに媚を
売り続けるなんて私にはできない。
「やっぱり、国際通りはみんなで回った方が
楽しいと思うけど」
飛田が困ったように言っても
諦めようとしない。
凛は、一度何かを考えるようにして、やがて
ニヤッと笑った。
嫌な予感以外しなかった。
凛は、取り巻きの女子にコソコソっと
何か話した後、雛乃や他の女子たちにも
何かを話す。
すぐに、雛乃が嫌な顔をした。
困ったように私の顔を見る。
私を仲間外れにするつもりなのは
すぐにわかった。
ただ、その方法がどういうものなのかが分からない。
凛と取り巻きがニヤニヤしながら言った。
「ちょっと私達さ、ここから国際通りまでの交通手段
調べてくるから、沙菜はここで荷物見張っててよ」
「う、うん」
やっぱり嫌な予感がするけど、そう言われた以上
何も言えないし動けない。
「俺もここに残るよ」
飛田が言ったけど、凛は自分勝手に
飛田を引っ張って行った。
結局、私一人が残された。
荷物を見張ってって言われたものの、
大きい荷物だけ置いて、他は全部持って行っている
ことに気づく。
そして、自分が今どんな状況に置かれているのか
分かった気がした。
置いていかれたんだ。
私一人、ここ、首里城に。
予想通り、少し待ってもみんなは帰って
来なかった。
急いで追いかけようとしたけど、
無理だった。
あいにく、此処には大きい荷物ばかり
置いていかれている。
一人で持って運ぶにはちょっとキツい。
泣きそうだった。
せっかくの修学旅行の自由時間に、
知らない場所で一人きりなんて。
私は、一人その場にしゃがみ込んだ。