キミに「きらい」って言わせたくて

お弁当の時間。

雛乃と2人で食べていると、雛乃はおかずを
口に含ませながら言った。


「向こうが勝手に嫌がらせして来てるんでしょ?
そんなの気にしない方がいいよ」

「そう、かな?」


「私は味方だからさ」


そう言って雛乃はニコッと笑った。

味方、と言ってくれたのがすごく嬉しい。


「ありがとう」


1人じゃない。


そう思えた。




「えーと、これで全員かな?」

放課後。

真っ新のジャージを着て生き生きと並んでいる
15人。

その内の11人が経験者で、後は初心者だそうだ。

人数の揃い具合はまずまずだった。

ただ、私たちが卒部した後に、16人でやって
いけるのかが少し心配だ。


「使えそうな奴、いるわけ?」


キャッチャーの西岡が聞いてきた。
「一応、あの奥原って子と如月って子は
中学でエース張ってたらしいけど」

「へぇー。名前聞いたことねぇな」

「所詮、推薦で入れるレベルじゃないってことだからね」


去年あんな事があったので、わざわざうちの高校を
選んで入ってくる人はかなり少なかった。

余計に、チームを取り持つのが難しくなる。


「では、1人ずつ技能を見ていこうと思います」


私は、1年生たちに指示を出した。

「うぁ〜!すごーい!!」


ただ今、日本列島の上空。

隣では、雛乃が外の景色にはしゃぎ回っている。

「雛乃、飛行機乗ったことないの?」

「小学生の時から乗ってなーい」


今日はみんな、いつもの数倍テンションが高い。


修学旅行。



受験前の、最後の楽しい思い出作りだ。
私達の学校では、毎年沖縄に行くことが
決まっている。

私は、雛乃と飛田と赤沢と、他3人の計7人で
回ることにしていた。


「沙菜、お前余分に金持ってきたか?」

前の席にいた飛田が振り向く。

「持ってきたけど、なんで?」

「後輩に買うお土産、全部沙菜にお願いしちゃダメ?」

「ダメに決まってるでしょ!!」


なんで私が全部買わなきゃいけないのよ。
私が飛田に腹を立てていると、
赤沢が言った。

「コイツ、財布の中身半分落としてきたみたい」


え!

なんだ、そういうこと。


「うそ、大丈夫?お金、少しなら貸せるけど」

「マジで?ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて……」


と、飛田は私の財布から二千円抜き取ってから
爆笑した。


「お前、馬鹿だろ」
「十希が喋ることのほとんどがウソだってこと、
いい加減分かれよな」


え、え〜〜!

じゃあ、さっきの話はウソってこと?


私は呆れることしか出来なかった。


「ま、金は有難く貰っとくから」

「は?何言ってんの、返して」

「一度貰ったもん返すかよ」

「いいから、返して」


あ〜もう、赤沢のせいで〜。
「あんた達、覚えときなよ!」

と、飛田と赤沢を指差す。


「は?俺関係ねぇし〜」

「赤沢〜〜!」


本当、赤沢といると腹しか立たない。

隣の席とか、もうこりごりだ。


「俺、ちょっとトイレ行ってくる」


飛田がそう言って席を立ったので、
赤沢は漫画を読もうとして、言った。
「そう言えば、甲子園決まったら飛田が
本多に告るらしいぞ」



赤沢があまりにも平然と、唐突に言ったせいで、
一瞬何を言っているのか全然理解できなかった。


雛乃が「え!」と声を上げ、周りにいた人たちも
身を寄せてくる。


しばらくして、やっと意味を理解してから苦笑した。


「もう騙されるわけないじゃん。飛田が私にとか、あり得ないし」


「いいのかな。俺のこと信じなくて」