今までの俺なら、引き留めるところだけれど、生憎今日の俺は違う。


「絢哉……ありがとう」


背中を向けたまま、ポツリ言った未幸もまた、何故かいつもと違った。


「今日あたしがここに来たのは……。もうここには来ないからって、言おうと思って……」


相変わらず頼りない背中を向けたままで、未幸は俯きがちに、らしくもない事を言う。


だからいつも憎まれ口を利く俺も、何て返していいのか分からない。


「あたし……こんなんだから、絢哉に呆れられてるのも分かってる。分かってたけど、それをどうする事も出来なかった……。ごめんね……。ずっと絢哉を好きで……ごめん」


未幸はそう言うと、意を決した様にドアを開いて出て行った。