「ああ、わかったわ。ありがとうね」



理玖の言葉に先生が軽く返事する。



理玖は扉に手をかけてからこっちを振り向いて笑った。



「早く治せよーー。待ってるからな」



ありがとう、そう口を動かしても声には出せない。



理玖は頷いたけれど、ちゃんと伝わったのかどうかはわからない。



こんなにも声を失ってしまったことを苦しく思えるのは初めてだった。



朝、「おはよう」と言いたい。


昼食を食べる時、一緒に「いただきます」と声を揃えて言いたい。


理玖の話1つ1つに「うんうん」と相槌を打ちたい。


分かれ道で「バイバイ」と手を振りたい。



でもできない。



声を失った時、人と関わりを持つ手段を失った気がした。



その存在そのものが必要のない私には声なんてあってもなくても同じだと神様が言っているのだと思った。



でも正直それがありがたかった。



話せない子になんて誰も話しかけてこない。



だから信じて裏切られることはもうない。



そう思った。