林の向こうに人影が見え、こちらに近づいてくる。



「由姫!ごめん遅れて」



大好きなその優しい笑顔に一瞬で足の震えが止まってしまって、笑ってしまう。


ああ大丈夫だ。


私は陸玖がいれば大丈夫だ。



「ううん、私もさっき来たばかりだから」


「2人でここに来るの久しぶりだな」


「うん。
あのね、陸玖、今日は言いたいことがあるの」



その瞳をしっかりと捉えて、はっきりと口にした。


陸玖はゆっくりと頷いて、私を見つめる。


その瞳が怖かった。


出会った頃は、そこには何も見えなくて、
いつの間にかそんなこと気にしなくなって、
ある日突然そこには恨みと冷たさしかなかったことに気づいて、


でも今は温かく私を見てくれている。


だから云える。



「私、陸玖が好き。
騙されたって、傷つけられたってかまわない。
そう思えるくらい陸玖のことが大好きなの。
だから私の傍にいてください。
私が、陸玖が失った幸せを埋めてみせる」




本当はこんな言葉じゃ足りない。


まだまだこの胸の中には溢れてあふれて止まない気持ちがある。


でも私にはこれしか言えないから。




「陸玖が好き、大好き…っ」




ああ結局泣いてしまうんだ。


泣かないって何度決意しただろう。


きっと私は筋金入りの弱虫なんだ。


もしもこんな私でもいいって言ってくれるのなら、どうか見せて。


あの時私が一目で好きになってしまった笑顔を。





「俺も好き、大好き
ううん、愛してる。
もう何でもいいから2人で一緒にいよう。
2人で必ず幸せになろう」





そう、その笑顔だよ。






夕日が映し出す2つの影がやがて1つとなる。






この先どんなに辛いことがあっても大丈夫。


必ず夕日は沈み、やがて朝日がまた照らしてくれるから。


雨が降っても、きっと花は痛まず、咲き誇っていてくれるから。


変わらず青はここにあるから。





そこにいますか?


陸玖のお父さん、お母さん、そして海央ちゃん。


ごめんなさい、あなたたちから陸玖を奪ってしまう。


でも必ず幸せにしてみせるから、だからどうかここから見ていてください。







風がそっと優しく吹き、私たち2人を包みこんでくれた気がした。