「うちのことはどがんでもよかと。ただ、今日は1つお願いがあって来た」


山田さんはそう言って腹を決めたように固く口を結んで、その場に土下座したのだ。


じいちゃんもばあちゃんも俺も驚いて、思わず顔を見合わせてしまった。


だけど俺たちが何か言うよりも先に、山田さんの低く芯の通った声が聞こえた。


「由姫のことを許してやってほしい。
この花があの子の仕業だってことはもう知っとるとよね?
高校生になってすぐあの子は種を持ってここに来て、うちのシャベルやらなんやら持っていくから気になって問いただしたら、あの子言いよった。自分の罪をに報いるために、何かしたい。
でも何をすればいいかわからない。
陸玖には近づけないし、残されたお祖父さんやお祖母さんの生活も壊すことはできないから。

思いつくのは、この場所のことだけやって。
自分がここに手を加えたりしたら、陸玖くんも家族も怒るかもしれないけど、自分にできることがこれ以外に見つからないって。

あの子は必死で前に進もうとしよる。
罪と向き合って、自分を見つめ直して生きていこうとしよる。

けどこのままじゃ由姫は幸せにはなれない。

こんなこと言うのふざけるなって思うのはわかっとる。
大事な家族を奪われて、許せだなんて理不尽にもほどがある。

でもうちはあの子に、由姫にだけは幸せになってほしい。

他の普通の子たちと同じように生きてほしい。

でもあの子が幸せになるには、あんたたちの、いや陸玖くんの許しが必要なんだ。

お願いです。
あの子を許してやってください」


あの由姫に対する酷い態度には何か事情があったんだろう、何も言われずにそう納得してしまうほど、山田さんの言葉には由姫を想う気持ちが溢れていた。


「頭を上げて下さい」


思わずそう声をかけていた。


山田さんは体勢を崩さず、顔だけを俺を見上げるようにして上げた。


この人はほとんど関係のない遠い親戚の犯した罪のせいで自分自身も苦しめられたのに、その娘のことを想って今一回りも二回りも若い俺に対して土下座をしている。


優しいなんて単純な言葉では表せない、大きく深い愛情を感じる。


「土下座もやめてください」


穏やかにそう言って、手を差し出すと山田さんは渋りながらもその手を握ってくれた。


じいちゃんとばあちゃんは何も言わずに俺をじっと見つめている。


でも、もう俺は誰の目も気にしない。