こっちが冷たくあしらっているつもりなのに、なぜか私のほうが軽くあしらわれている気分だった。


わからない。


どうして彼がそこまで私に執着するのか。


学校一の人気者の彼を魅了するほどのものなんて私は持ってないのに。


確かに私は人より見た目が整っていることは自負している。


幼いころから何度も芸能事務所からスカウトをうけ、初めて会う人には決まって美人だねと言われてきた、街を歩けば二度見されることもよくある。


だけどそれだけだ。


私はほかに何も持っていない。


周りを自然と笑顔に変えてしまう美結のような明るさも、
今日私に宿題の提出を頼んできたあの子のように何か熱心に取り組んでいるものもない。


それに顔がかわいくて、透に興味を持っている子なら学校の中にだってたくさんいる。


学校を出れば、星の数ほどいるだろう。


私でなければいけない理由などどこにもないのだ。


「もういい加減やめてよ」


そう重い溜息をつきながら真剣なまなざしで言ったところで彼には少しも響かない。


「いいよ、付き合ってくれたらやめてあげる」


こんなふざけたことを平然と言ってのける。


もはや脅迫じゃないか。


訴えてもいいかな。


いや、さすがに人を2人も殺した男の娘が、こんなことで騒いでたら滑稽以外の何物でもないか。


「俺由姫ちゃんに一目惚れしちゃったんだよ」


続けて透がそう言う。


そのあとも何か言ってたけど、頭に入ってこなかった。


一目惚れという単語と明るい笑顔はあの日の気憶をまるで昨日のことのように鮮明に蘇らせるには十分だった。


『いや、俺本気で一目惚れしてしまったかもしんない』


私の正体に気づいていたのに、自分の気持ちを無理矢理押さえこんでそう言った初めて出会った日の陸玖。


もしも、私があの日に戻れるとしたらどうするだろう。


きっと同じだ。


同じように自分をだまして破滅の道をたどるだろう。


だってあの時すでに私は陸玖に一目惚れしていたんだから。



「もしもーし。由姫ちゃん、俺の愛の告白ちゃんときいてた?」


ぼーっとしていると、透は思わずのけぞってしまうほど至近距離に顔を近づけていた。     


油断も隙もない男だ。 


「聞いてなかった」


素っ気なくそう言って、いつのまにかたたみおえていた洗濯物をかかえてたち上がった。



「何を言われても私は透のこと好きにならないよ」