おばさんには夕食の準備に戻ってもらい、私は黙々と作業を続けていた。



しばらくすると、ドアが開く音がして、直後に声をかけられた。



「あ、由姫ちゃん。ただいま！」



ドアから背を向けて座っていたので顔は見てないけど、能天気そうなその声に思わず顔をしかめてしまった。



この声の持ち主を私はよく知っている。



「おかえりなさい」



「ったくもうちょっと愛想よくしてよ〜」



感情なんて微塵もこもっていないのに、男はニコニコとさも本気であるかのように言う。



チャラ男という言葉が私の数少ない知り合いの中で一番似合うこの男は萩原透という。



同じ高校の同級生で、端正な顔立ちと優しい言葉を武器に学校中の女子を虜にしている。



その人気は絶大なもので勉強をひどく強制される私のクラスにもたくさんファンがいる。



だけど、私は苦手だ。



何を隠そう、私はこの男からしつこく口説かれている。