ため息をついて、なるべく下を向いて歩いていく。



誰も視界に入れなければ、無駄な期待をせずに済む。



しばらく歩いたところで、子供の泣き声のようなもの微かに聞こえた。



周囲を見渡すがそれらしき光景はなく、首をひねりながら歩いていくとその先にあったベンチに顔をこすりながら大泣きしている幼稚園生くらいの小さな男の子が座っていた。



周りに大人や学生はいるものの、迷惑そうな視線を一瞬そちらに向けてそのまま通り過ぎていく。



誰かがなんとかするだろう。



そんな魂胆が見え見えだ。



早く帰りたいのか、早く遊びに行きたいのか、どっちにしろ酷い行為だ。



この後、あの男の子が何か危ない目にあったりしてニュースなんかに出てこない限り、彼らはあの子のことなんか一瞬で忘れてしまうだろう。



でももし、本当にそんな目にあってしまって、それを知ったら途方もなく後悔するのは彼らなのに。



私はベンチに近寄って行き、目線を低くしてその子に話しかけた。



初対面の人は余り得意ではないし、子供も好きな方ではない、それでもなんとか猫なで声のような声を絞り出した。



「どうしたの?お母さんやお父さんは?」



男の子は勢いよく顔を上げ、すがりつくように私の制服の袖を掴んだ。



泣き声は小さくなったものの、ポロポロと涙を零しながら私に真っ赤な顔で訴えてきた。



「幼稚園からね、犬さんを追いかけてきたら、わかんなくなっちゃたの」



やはり幼稚園生か。



ここまで幼稚園生の体力でやってこれる距離にある幼稚園は1つしかない。



私は一度そこにボランティアで運動会の手伝いに行ったことがあって覚えてる。



結構入り組んだところにあって、幼稚園生が1人でたどり着くには厳しいだろう。



「お姉ちゃんわかるから一緒に帰ろっか。きっとみんな心配してるよ」



そう声をかけて頭を撫でると、男の子は少しだけ表情を明るくして頷き、ベンチから立ち上がって私の手を握った。