バッグに机の中の勉強道具たちを詰めていると、遠慮がちにクラスメイトの1人が近づいてきた。



真面目な生徒の多いこのクラスの中では結構目立っている女子だ。



「坂井さん。現社の宿題ってもう持ってっちゃったよね?」



そう聞かれながら、見覚えのあるプリントを見せられてああと思い出す。



朝、私が集めて先生のところに持っていった宿題だ。



「ああ、実は私も出してなかったんだ。持っていくよ。部活あるんだよね?」



「本当に!?そうなの、今日早く行かなきゃいけない日で…お願いしてもいいかな?」



硬くこわばっていたその子の表情は一気に柔らかくなった。



特進科のクラスで部活、それも運動部に所属している子は数名で、この子は数少ないうちの1人だ。



いつも勉強だけでなく、部活の試合にも追われて本当に大変そうだ。



大した用事もない私がこんなことで役に立てたなら本望だ。



「全然いいよ」



「本当にありがとう!いつか何かお礼させて!それじゃお願いします!」



その慌てて教室から出ていく姿から決して持っていくのが面倒で私に押し付けたわけではないことがわかった。



笑顔で手を振って送り出すと、その子もわざわざ後ろを振り向いて手を振り返してくれた。



私はこのクラスの学級委員長を務めていて、こういうことはよく頼まれる。



その度に快く引き受けるが、美結にはそれはただのパシリなんじゃないかと詰め寄られることもある。



だけど、私はパシられているくらいがちょうどいい。



余りにも心地のいい環境だと、罪の意識が薄れてしまうかもしれないから。