「頭をあげなさい」


凛とした声でそう言われ、頭をあげてお母さんと向かい合う。


「子供が親に対してそんなこと頼まなくていい。
親にとって、子供のやりたいことをやらせてあげられるのは苦労なんかじゃない、幸せなことなの。
例え、苦しくても、体がキツくても、貴方が笑っていられるなら全然平気なの。
だから貴方は何も気にしなくていい。
自分が生きたいように生きなさい。
貴方が我慢する必要なんてないんだから」



そう言うと、お母さんは私を抱き寄せ頭を撫でた。



久しぶりのお母さんの腕の中は洗剤の香りと汗の匂いが少し混じった匂いがした。



でもそれは心地よかった。



「よかった。由姫のそんな顔本当に久しぶりに見た…」



お母さんは涙交じりの声でそう呟いていた。



そうしていると私もまた泣きそうになってしまって、歯を食いしばって堪えていた。



少しして、襖が開きおばさんが入っていた。



お母さんは慌てておばさんに向かって頭を下げた。



「すみません!すぐに夕飯の支度をしますから!」



しかし、おばさんはそんなお母さんを制し、無理やりその手になにかを握らせた。



私からはそれが何か良く見えなかったが、お母さんは驚いたようにおばさんと手の中のモノを交互に見比べていた。



「少ししかないけど、それをこの子の進学金の足しにせんね」



その言葉を聞いて、ようやく私はそれが通帳であることに気づいた。



「なっ、何を仰ってるんですか!こんな…受け取れません…。こんなによくしてもらっているのに」



お母さんはきっと状況をうまく飲み込めていなかったが、それでも必死におばさんに訴えていた。



私はというと、何も言えずその光景を呆然と見つめていた。