「彼女なんていませんよ。母さんも誤解招くようなことは言わない」


「あら、前はいたでしょ?」


「前はいたよ、確かにね。でも、今はいない」

 彼女いないのか、今度はホッとしている自分がいた。
 なんだろう・・・なんか変。さっきから智弥の言葉に一喜一憂している私がいる。
 別に智弥に彼女がいようがいまいが私には関係ないことなのに。

「俺、怜美と結婚しようかって考えてるところだからね」

 紅茶を美味しそうに飲みながら目の前のイケメンがさらっと何か言った。
 その言葉に、私を含む女性3人の動きが止まる。
 少しの沈黙を破ったのはうちのお母さんだった。

「え、えっ、えぇ!?今、智ちゃんなんて言った!?怜美と・・・って、えっ!?」

 おっとりしていそうな麻里子さんさえも、驚きを隠せずにいるって感じ。

「そうなの?そうだったの!?もしかして中庭でプロポーズしてたとか!?」

 興奮して立ち上がっているお母さんに対して、驚きすぎで完全に凍結している私。質問する麻里子さんに、智弥はうるさそうな顔をしながら「してねぇよ」と答えている。

「や、やだ~、智弥。冗談言わないでよ」

 驚きすぎて固まりながらも、ひきつり笑いでなんとか答えると、智弥はにやっと笑うだけだった。
 その場は冗談でなんとなく話は流れたけれど、私は終始ドキドキが治まらなかった。