「綾瀬さんっ、、あれってさ‥」


楠木くんの口から発せられる言葉の続きが
どうしても怖い。

きっと、もう気づかれてる、、
こんな光景を目にしたら、誰だって
想像がつくはずだから‥


「あ、あれはね、違うよ。
そんなんじゃない、、ホントだよ。」


もう自分でも何を言っているのか
頭が真っ白で、分からない

けど、何か喋らないとって、、
使命感に襲われる‥
沈黙に耐えられそうにないから。

それなのに、
大事なときほど言葉は続かない。

もう逃げてしまいたいなんて思う。


「綾瀬さん、何が違うの?
そんなんじゃないって、、どこが?、、」

少し怒ったような口振りの楠木くん
もう、逃げ場はないんだ。


「俺さ、優しくないんだ。
ダメだって分かってんのに、、
今だってこうやって、
綾瀬さんを困らせるような事言ってる。」

そう言う楠木くんの瞳が、
悲しそうに揺れる

「俺、綾瀬さんが必死になって
隠そうとしても、強がっても、、
ほっといてあげられない‥
本当は苦しくて辛いはずなのに、、
いつも一人で抱えるから、、

綾瀬さんがいつか壊れそうで

怖いんだっ‥。」


楠木くんがくれる優しい言葉は、
私の胸を苦しめる

こんなにも、うれしいはずなのに、、
すごくうれしいはずなのに、、

どうしていいのか分からない。

今の私は、
人として大切な何かが足りないんだ。

自分の感情が、分からない。
本当の感情が‥


分からないよっ‥。





あの日から、ずっと、、
自分の感情なんていらないって、、
ただ、邪魔なだけだって

どこかにしまい込んできたから。