丁度そのタイミングで、様子を見に来たのだろう。
「桃原さん、俺も何か手伝おうか?」
一条部長が開けっ放しの扉の向こうから顔を覗かせた。
そして、バッシュを抱えて立ち尽くす私を見て眉根を寄せる。
「……どうしたの、それ」
「来たら、床に転がってて……」
部長の視線が部室内を見渡して、被害に遭っているのが二ノ宮のものだけとわかると、静かに部室の扉を閉めた。
そして、深く息を吐き出す。
「恐らくうちの部の誰かだろうけど、誰だかわかったらすぐに対応していく。それと、この事は俺から二ノ宮に伝えるから、桃原さんは」
「部長」
私は、一条部長が話しているのを遮り、彼と向き合った。
好きな人の為に、自分のエゴで一歩踏み出す為に。
「……うん?」
自分が最低なのは百も承知。
二ノ宮に相談もせず、勝手に決めて。
でも、それでも、彼の好きなものを残せるのなら。
精一杯の勇気を胸に、唇を開く。