思わず唇を噛むと、ふたつ目のシュークリームを食べず、どこか遠い目をしてそれを眺める兄が声にする。
「頑張っても頑張っても、どうにもなんないことはあるんだよな。そういう時は、一度離れる勇気を持つのも必要なんじゃねーかなと思う……。それは別に後ろ向きな考えでもなくてさ、相手も自分も進む為に必要なことっつーか……例えそれで、泣いたとしても、さ」
言葉を選ぶというより、思い出しながら語るような姿に私は口を開いた。
「もしかして、お兄ちゃん、経験者?」
すると、兄は少しだけ寂しげに微笑む。
「……俺もだし、俺のダチもな。だから、知ってるんだ。本当に好きなら、時間が経ってもまた笑い合えるようになるのを」
声色に優しさと切なさを滲ませて話し、シュークリームを持たない手で私の頭をくしゃくしゃと撫でながらニカっと笑った。
「もし何してもダメなら、兄ちゃんが気晴らしでもなんでも相手してやるから」
カラオケでも、甘いもの食べに行くのでも、お前の気が済むまでなんでも。
そう告げた兄の声はひどく優しくて、思いやり溢れる愛情を与えられ、私は泣きそうになるのを堪えながらひとつ、確かに頷いてみせて。
兄と2人、シュークリームを口に入れる。
舌の上に広がる甘さで、いつまでも消えない不安を誤魔化すように。