「俺が1番大事なのは桃原自身。指輪は無くなっても桃原がいればいいから、そんな顔すんなって」


な? と、柔らかく微笑まれて私は泣きそうになる。

本当に、この人はどこまで優しいんだろう、と。

私が泣いたら気を遣わせてしまうかもしれないと思い、私は彼の手が頬から離れたタイミングで立ち上がった。


「ありがとう、二ノ宮。でも、まだ諦めたくないから、私はあっちのボール入れあたりを探してくるね」

「わかった。俺はこのあたりの段ボールの中を確認すればいい?」

「うん。お願いします」

「了解」


手分けして、彼の存在を頼もしく感じながら、薄暗い湿った空気の中、特に会話もせずに探すことに集中していた時だ。


ガラガラ、と。

少し錆びついた倉庫の扉が動く音がして。

何事かと、ボール入れ脇から顔を覗かせれば、クリーム色の扉が閉まっていく。

その向こうに立つのは、二ノ宮の背を見つめ仄暗い瞳で薄く笑みを浮かべた三輪君の姿。

彼の姿は私が声をかけるよりも早く、扉が閉じて見えなくなってしまい、二ノ宮が何事かと振り返った直後。


──ガチャン。


鍵が、かけられた。