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「それでね、野球部のボールが陸上部のところに転がってきた時、拾ってあげてもみんなお礼も言わないのに田村くんだけがいつも丁寧に帽子まで取ってお礼を言ってくれたんだって」
私は濡れた髪の毛をタオルで拭きながら言った。
今日はハチのお母さんが仕事で遅いからと、ハチがうちにご飯を食べにきてついでに「お風呂も入っていったら?」と、うちのお母さんが提案して、ハチの髪の毛もまだ濡れている。
ハチはすでに眠いようで漫画を読みながらコクリコクリとしているけど、私はお構い無しに話を続けた。
「そういうの大事だよね~。美樹ちゃんが田村くんに片思いしちゃうのも分かるな。女子はそういうのに弱いっていうか、やっぱりちゃんとお礼を言える人って素敵だもん」
昼休みに田村くんの話をしてる美樹ちゃん可愛かったな……。素直でいい子だし、叶うならこの恋が実ってほしい。
「ねえ、ハチ。ちゃんと聞いてる?」
私は肩を揺さぶった。
ハチのまぶたは落ちかけている。きっとハチがこのまま私の部屋に泊まってもお母さんはなにも言わないだろうけど、それはさすがにマズイというか私が熟睡できない。
「ハチ目開けて!それで私の田村くんの話を聞いてよ!」
すると、眠りかけていたはずのハチが睨むように私の顔を見た。