「ご褒美はないの?」

「へ?」

「お願い聞いてあげたご褒美」


ま、まさかこんな展開になるなんて思ってなかった。


ご褒美って、ご飯とか?いや、それじゃ本当に犬になってしまう。

それに、ハチのこの顔。私を求めているようなこの瞳は幼なじみだけの関係の時にはなかった。


「じゃあ、ぎゅっとしてあげる」

私はクマのクッションを枕にしているハチに向かって両手を広げた。

けっこう恥ずかしいのに、ハチは全然嬉しそうじゃない。


「それだけ?」

「それだけ!」

断言しないと次々要望を言われそうな雰囲気だったから。ハチは『それならいらない』なんて言うと思ったのに「じゃあ、して」と、私が抱きしめるのを待っている。

自分で言ったくせにかなり心臓がうるさくなっていたけど、お預けはさすがに可哀想だから、私はハチをぎゅってした。


ハチの背中は手が回りきらないほど広い。

どっちの体が熱いのか分からないけど、その熱と共にハチのいい匂いがして、頭がクラクラとした。


「キスはなし?」

ハチが私の耳元でささやく。


……ああ、本当にこの声は反則。


思わず流れで受け入れてしまうところだったけど、「きょ、今日はハグだけ!」と言うと「えー」と、ハチは不満そうにふて腐れていた。