ゆっくり目を開けると、目の前に苦しそうな彼女の顔があった。



「え……?」


「あれ、月影彩羽のほうを先に殺っちゃった?」



彼女の腹部に笑里さんが使っていたナイフが刺さっている。



「なんで飛び出した!」



彼女の背中を支え、抱きかかえる。



「だって……氷室くん、は……やっと人生やり直せるところだったんだよ……?……終わらせたら、ダメだもん……」



傷は想像以上に深いらしく、彼女は絶え絶えに言葉を発した。



「俺はお前がいるから……!」


「そう、だ……氷室、くん……私の、名前……呼んで……?」


「いくらでも呼んでやるよ、彩羽。だから、頼む……死なないでくれ……」



彩羽の頬に、俺の涙がこぼれる。



「ごめん、ね……そのお願い、聞け、ないや……」



彩羽は俺の涙を拭うために手を上げようとしたが、その手は俺の頬に届く前に、床に落ちた。



「いろ、は……?彩羽!なあ、彩羽!頼む、目を覚ましてくれ……彩羽!」



どれだけ呼びかけても、彩羽は目を開かなかった。





「次はアンタの番。すぐ月影彩羽のところに逝けるよ」


「うるせえよ」



俺は彩羽を横向きに寝かせ、立った。

右足は真っ赤に染まっていたが、その痛みもなくなるくらい、俺は笑里さんへの怒りでいっぱいだった。



「アンタを殺さないで、彩羽のところに逝くわけないだろ。それに……」



足を切られているとは思えないスピードで笑里さんの首元を切る。



「俺もアンタも、たどり着くのは地獄だ」


「それもそうね……」



笑里さんはそう言って、倒れた。



「彩羽……」



足を引きずりながら、彼女の元に寄る。



「彩羽のいない世界なんて、つまんねーよ……」



愛用の短刀を首元につける。



すると、ふと彩羽の笑顔が思い浮かんだ。

その彩羽は、急に俺を睨んできた。



『なに死のうとしてるの!氷室くんはまだ、死ぬべきじゃないんだってば!それに、さっきのお姉さんは守りながらだと弱くなるって言ってたけど、全然違うからね。今の氷室くんは、最強、だよ!そうだ、最後にいいこと教えてあげる。私ね……氷室くんのこと、大好き!』



言いたいことを全部言った彩羽は、光に包まれて消えていった。



「俺だって……」



横たわる彩羽の頭をそっと撫でる。



「すぐ戻ってくるからな」





俺は社長室に向かった。



社員だったときはノックをして入っていたが、あいにく、そんなことをしている暇はない。



勢いよくドアを開けると、社長は余裕を見せてきた。



「遅かったな、氷室仁」



社長椅子から立ち上がった彼の気迫に、背筋が凍る。



「なあ……もう辞めろよ……いらない人を、殺しで抹殺するなんて、今どき流行んねえよ」


「君に指図される義理はないはずだよ。それに、今さら抵抗したって遅いんだ」


「遅くても!死なない限り、何度でも人生やり直せるんだよ」


「へぇ……君、面白いこと学習したみたいだね。何十人も殺してきた君の人生は決まってるだろう。刑務所の中だ」


「それでも、やり直す。間違ったなら、やり直せばいいんだ」



なにを言っても折れない俺に痺れを切らしたのか、社長は深いため息をついた。



「どっちにしろ、私は辞めないよ。だが、君には一切関わらないことを誓おう」


「……絶対だぞ。俺は二度と、殺しはしねぇからな」


「もちろんだ」



口約束なんて何年か経つと無意味となるだろう。


それでも、何もしないよりはマシだった。



俺はその場から立ち去り、その足で警察に向かった。





未成年でも、俺の罪は重かった。



俺が刑務所から出ることができたのは、あれから十年後のことだった。



社長は俺が警察に話したことによって、逮捕された。

今も刑務所の中だろう。



「すみません、花束一つ」


彩羽に似合うカラフルな花束を買い、墓に向かう。



彩羽の遺体はあの日、警察から親族に渡ったらしい。

葬式は両親のときと合わせて行ったと聞く。



「待たせたな、彩羽」



墓場に置き、手を合わせる。



俺の人生、これからだ。

お前は俺のこれからを見守ると同時に、闇を照らし続ける存在となってくれ。


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