「志帆〜、そろそろ、代わってあげたほうがいいかなぁ?」
後ろからカリンの声が聞こえてきたので振り向いた。
「えっ?」
「ほら、こんなにたくさん並んでる!かなり早いペースで次の人に代わってあげないと、全員できないかも」
そう言ってカリンは、私やユイちゃん、エリカちゃんから少し離れた所に集まってきている1年生たちを指した。
「わ、いつの間にこんなにたくさん!!」
そこには、5、6人くらいの1年生が集まっていた。
みんな、トランペットの体験がしたくて来ているようだ。
私はユイちゃんとエリカちゃんのほうに向き直る。
「それじゃあ、ユイちゃん、エリカちゃん、そろそろ次の人に代わってあげないといけないから、今日はここまでね……もし、もっと吹きたくなったら、ぜひ、吹奏楽部に入ってね!今日はありがとう!」
そう言うと、2人は軽く頭を下げて「ありがとうございました」と言い、トランペットを置いて他のパートのところへと行った。
「それじゃあ、ちょっとマウスピース洗ってくるから、待っててね」
そう言って私は、さっきまでユイちゃんとエリカちゃんが吹いていたマウスピースを洗いに、廊下に出ていく。
窓の向こうに見える運動場でサッカー部がボールを追いかけて走っている様子を遠目に見つつ、水道でマウスピースを洗いながら、私は自分の心に起こっている変化を実感していた。
後輩の相手なんて、何をしたらいいのか分からなくて、不安と緊張ばかりだったけれど、今は少し違う。
何かを教える、ということが、楽しく感じられてきた。
自分が何かを教えると、後輩が音を出せるようになるということが、とても嬉しかった。
これから、私、後輩に頼られるような、立派な先輩になりたい────
松本先輩みたいな先輩に────
そんな思いが、私の心を満たしつつあった。