やがて、人の入りも落ち着いてきたので、私たち部員は合奏の席に着いた。
前の方にいる1年生は、何度見ても驚いてしまうほどのものすごい人数だ。
寺沢先生が前に立ち、1年生に少し話をしてから、さっそく私たちは合奏を始めた。
最初に演奏するのは、入学式でも演奏した「アルセナール」だ。
────パーン、パーン、タタタッ!
出だしのファンファーレはバッチリ決まった。
いくら自分たちが楽しんでも、聴く人が楽しめなければ、音楽としての意味はない────
寺沢先生に注意されたことをきっちり守りながら吹いていく。
一つ一つの音のピッチ、強弱、息づかいなどにとにかく注意して、丁寧に、けれどマーチだから思い切りの良さも大切にして、一つの曲を作り上げていく。
寺沢先生に指導して頂いたのはまだたったの2、3週間だけなのに、以前と比べて私たちの音が変わっているのが、はっきりと分かった。
曲が終わると、今の部員数の2倍は軽く超えるであろう人数の1年生から、盛大な拍手が起こった。
湧き上がる、という言葉がぴったり合うような拍手。
私が初めて聞くような、熱い拍手だった。
その後も、吹奏楽祭で演奏する予定のポップスなどを演奏したけれど、どれも演奏が終わった後には、今までに経験したことがないほどの拍手が起こった。
この人たちは、私たちの演奏を楽しんでいる────
それが伝わってくるような拍手だった。
私はそれを聞きながら、去年の今頃、この部活見学で聴いた演奏を思い出していた。
あの時の、心を奪われるような松本先輩のトランペットの音を超えることはまだできないけれど────
それでも、少しでも近づくことはできているかもしれない。