「うん。だからこういう願い事とかどうしても叶えたいことって、過去形にしちゃうといいのよ」
 

と、墨が乾くのを待って、紅亜は更にそれをセロハンテープでぺとりと壁に貼った。


「毎日これ見て、毎日想うの。逢えた、また逢えた。だからきっと、また逢える――。

そんな感じに、自分に言い聞かせるの。そうするとね、それを聞いた自然とか運とか、そういう誰にも触れらなくて人間にはどうすることも出来ないものが、聞き届けて叶えてくれるわ。

そうか、そんなに叶えたいのか、そんなに逢いたいのか――ってね」
 

そうか――の下りをわざとらしく低い声で言って、最後に紅亜はおどけるように真紅を見た。


「………」
 

真紅はまだ言葉がない。
 

なんと言う母らしい方法。
 

穏やかだけれど型破りで、優しいけれど気が強い。
 

そんな風に、自分を信じる方法。


「……」
 

初めて、真紅の顔が綻(ほころ)んだ。