「風邪ひいちゃうよ」



愛おしげに言う善兄が、ひどく気持ち悪かった。



やめて。

しぼんだ声より先に、手が動いていた。



バシッ、と傘の持ち手を手の甲で弾いて、拒否した。


地面に、傘が転がる。




「勝手に、大切な名前を騙らないで」



やっと、声が、出た。



剛なら、まだマシ。

善兄は、嫌だ。



世界で一番嫌いな人だから。




「でも、名乗ったおかげで、幸珀の方から追いかけてくれたでしょ?」


「わ、私は!あんたになんか、会いたくなかった!!」




善兄は、私と朔と真修の自慢のお兄さんであり、遊び相手であり、憧れであり、よき理解者だった。


――善兄の本性が、あらわになる前は。