前に、私の部屋に不法侵入して手紙を置いてきた、あいつだ。




「なん、で」


「なんでNINAを名乗ったのかって?」



チビな桃太郎が羨むであろう、180センチ超えの高身長である善兄は、必然的に私を見下ろす形になる。


それもまた不快感を植え付けて、皮膚がひりついた。



「幸珀に会う口実、っていう理由もあるけど。一番はやっぱり、NINAを……幸珀を知りたかったからかな」



現在、朔や親と一緒に住んでいない。


大学の学生寮で一人暮らし中。……のはず、だった。



だから、油断していた。

会うわけがないと、高をくくっていたのだ。




どうして、善兄がこの町に……私のそばにいるのだろう。


夏休みだから帰省しに?

それとも、別に何か……。




「あ」


一音だけこぼされて、私の頭上に降り注いでいた雨が途端に遮断された。



今度は私の方に、真っ黒な傘が影を作っていた。