その代わりに、


『名前はなんていうの?』


と、できるだけ明るく聞いた。




『名前は、円堂 仁奈【エンドウ ニナ】。ちょっと天然だったけど、可愛いという言葉が似合う女の子だったわ』




あ、また。

女の子『だった』って、過去形。


どうして?



『仁奈、さん……。名前も可愛いね』


『そうでしょう?』



含み笑いするお母さんの横顔は、穏やかで、それでいて悲しそうだった。



『自慢の、友達だったの』



でも、と声を落として俯く。



『あたしは、自分がいじめられたくなくて、仁奈を助けられなかった。見て見ぬフリをして、拒絶したの』



母親として振舞えなくなったのか、「お母さん」ではなく「あたし」と口にしたお母さんに、私は何も言えなかった。


何を言ったらいいか、わからなかった。