『でも、いじめをやめさせようと行動したことは、すごく、すごくえらいわ』


『お、母さ、』


『怖かったでしょう?よく頑張ったわね』


『うん……うん……っ』




泣きそうになった私は、気がつかなかった。


お母さんの手が、震えていることに。




『……お母さんは、できなかったわ』

『え?』


溢れた涙が、枯れる。



『お母さんが中学生だった頃にもね、クラスでいじめがあったの』



静かに語り出したお母さんは、ひどく綺麗な夕焼け空を眺めた。


結局、涙は滴らなかった。



『いじめる標的は、お母さんの親友だった。あとでわかったんだけど、その子はね、蒼……お父さんの双子の妹だった』



親友『だった』、双子の妹『だった』なんて、どうして、過去形なの?


そう、聞くに聞けなかった。