真っ黒な傘をさして雨粒を弾いている、1人の男が、グラウンドの真ん中で佇んでいた。


追いかけっこの時間はおしまいだと、教えるように。



「な、んで……っ」


「待ちくたびれたよ」



眼を瞠って動けない私に、一歩また一歩と近づいてくる。



待って。

嘘、なんで。


あなた、なの?



あなたが、NINAを騙っていたの?




目の前まで寄ってきて、ぎこちなく男の顔をなぞる。


忘れたくても忘れられなかった顔が、そこにあった。




「会えて嬉しいよ。――本物の、NINA」




私を「NINA」と呼ぶ、この男の秘密を、私は知っている。



そして、私も。

この男に、秘密を知られている。



全てではないけれど。