息ひとつ乱れていない桃太郎に、いつの間にか集まっていた野次馬が黄色い歓声を送る。
「お、覚えとけよっ!!」
太った男と細身の男は、桃太郎に殺られた部分を抑えながら、ダサい捨て台詞を吐いてこの場から走り去っていった。
典型的なセリフだったな。
もっとかっこいいの選べばよかったのに。
「凛さん、どうでした!?」
「かっこよかったぞ」
嘘つけ。
うとうとしてて見てなかったくせに。
「助けてくださってありがとうございました」
穏やかな平和を取り戻し、太った男と細身の男に絡まれていた女の人が、改めて私達にペコリと頭を下げた。
礼儀正しい、綺麗な人だなぁ。
「あのお礼に……これ、私の店で使用できる無料券なんですが、よかったらもらってください」
「い、いいんですか!?」
「大したものではないですが……」
「いいえ、大したものです!ありがとうございます!」
もらった無料券は、ケーキバイキングのサービスもやっている、繁華街にある人気のカフェのものだった。