ショウヘイは前髪を掻き上げると、ネクタイを緩めてラフな姿勢でワインを飲んだ。

相当に気を遣ったんだろう。

「松坂部長、やっぱすごい人だな。」

ショウヘイは窓の外の夜景に目をやりながら、ポツリとつぶやいた。

「ええ。いなくなっちゃうの本当に残念だわ。」

「そうだね。俺ももう少し部長の下で働いて色々教えてもらいたかった。」

そして次の部長が、義父だなんて。

「松坂部長は全て知ってて俺に声かけたんだと思う。今日は話せてよかったよ。」

ショウヘイは自分の背広の内ポケットに入れてあった松坂部長の名刺を出した。

しばらくその名刺を眺めている。

「松坂部長の会社に行くの?」

「いいや。そんなことするのは自分から逃げてるみたいで嫌だ。」

ショウヘイは、手元に視線を落としたまま続けた。

「君は知ってるかもしれないけど、河村部長は別れた彼女の父なんだ。だから、まさか人事部長でまた近くにやってくるなんて、思いもしなかったけどね。」

「ほんと、何考えてるのかしら。」

「相当、俺のこと恨んでたからなぁ。そりゃそうだろ、自分の娘があれだけ傷つけられたら誰だって。」

「だけど、あなたが悪いんじゃないんでしょう?」

ショウヘイの浮気が原因じゃないってはっきりもう一度聞きたかった。

「どっちかだけが悪いっていうのはないよ。もともと、俺にも下心がなかったわけじゃなかったからね。彼女との付き合いは。」

「下心?」

「縁談の話が舞い込んできたとき、実は同じ部署で付き合ってる子がいた。その子と別れ話をしていた矢先の縁談だったし、今後の俺の仕事に多少なりともいい影響があるかもしれないって期待しなかったといえば嘘になる。」

「付き合ってた子はその後大丈夫だったの?」

「ああ、多分。随分ともめたけどね。最後はきちんと気持ちが離れたことを告げた。」

「悪い人ね。」

「気持ちがないのにずるずる引っ張る方が悪いと思うけどね。」

ま、まぁそうだけど。そんなことより・・・。

「別れた最大の原因は彼女の浮気だってこないだ言ってたけど・・・。」

どうしてこうも自分が必死に問いただしてるのかわからなくなる。

ショウヘイの無罪放免を確かめたかっただけ。

「ああ。だけど彼女が浮気に走った原因は俺にもあるってことだよ。結構な時間、彼女に寂しい思いをさせてた。それに、最後まで彼女に本当の愛情をもてなかったのは俺が縁談を軽はずみに受けてしまったせいだと思う。」

あなたは彼女が家で寂しく待っている間、他の女とよろしくやってたわけじゃないわよね?

「あなたは浮気はしてない・・・?」

ようやくショウヘイが私の方に顔を向けた。

切れ長のきれいな目。

泣きそうな顔で見ていたと思う。

必死に目を逸らさずに彼の目を見つめた。