何から言い始めようか迷っていたら、ショウヘイが先に口を開いた。

「こないだの地下鉄火災お記憶にございますか?僕が出張に出てた際、まさにあの火災の現場に巻き込まれて歓送迎会に遅れて行ったんです。携帯も充電切れで連絡も取れず、村上さんが一人本社に戻って僕からの連絡を待ってくれていました。結局僕もぎりぎり会場に着いたので、村上さんには迷惑かけました。」

「そうだったのか。それは澤村くんも村上さんも大変だったね。だから村上さん、ずっと会場にいなかったんだ。」

「はい、すみません。部長の大事な送別会でもあったのに。」

「でも、今日はこうしてあの会で一緒にいられなかった君たちとゆっくりできて、ちょっとした送別会みたいだな。丁度よかったよ。」

部長は笑った。

思っていたよりも退職を控えていながらも清々しい松坂部長と、その後も和やかに楽しい時間を過ごした。

20時半頃、部長が自分の腕時計を見て、

「お、もうこんな時間か。実はこの後も人と会う約束をしていてね。君たち二人はせっかくだからここでゆっくりしていってくれ。相当に気も使って疲れただろうから。」

と言うと、私にウィンクをして立ち上がった。

そのウィンクは何ですか???

私達も慌てて立ち上がる。

「ここの支払いは僕の方で済ませておくから、心配せずゆっくりしていったらいいよ。じゃ、またあと少し会社で世話になるけどよろしく。」

部長はそう言うと、笑顔でその場を後にした。


ふぅー。

大きく息を吐いて、椅子にストンと座ると、横でショウヘイも疲れた顔で座った。

「今日は急な誘いで悪かったけど助かったよ。」

ショウヘイはワインではなく水を一口飲んで言った。

「別に。構わないわ。松坂部長とはきちんと送別会でも挨拶できてなかったから丁度よかった。」

ボトルにまだ少し残っていたワインをショウヘイと私のグラスに注いで空けた。