ショウヘイはワイングラスをそっとテーブルに置くと、部長の目をまっすぐ見た。

「ええ、好きです。」

部長は少し困ったような表情をして頷く。

「村上さんは?」

そして私に顔を向けた。

「私も、居心地良く働かせて頂いてます。」

好きとか嫌いとか、そういう意識をしたことがなかったし、正直早く結婚退職して会社とはおさらばしたかったからこういう言い方で逃げた。

「そうか。」

部長はワインを飲んだ。

「・・・ならいいんだが。これからの会社は君たち若者にかかってる。おかしいと思えば声を上げて変えていかないといけない場合も出てくるだろう。腑に落ちないことを言われて本当に自分が必要とされている仕事ができないというのは僕は間違っていると思うし正していかなければならないことだと思う。」

部長はワイングラスを見つめていた目を上げて、ショウヘイの顔を見た。

腑に落ちない事・・・

まさに、今のショウヘイの状況のようだった。

ひょっとしたら部長も知ってるんだろうか?

ショウヘイは、苦笑してうつむいた。

「あと、僕の後任だが、恐らく明日公示されると思うから一足先に君たちに教えるけど、海外営業部部長の河村部長に決まった。」

海外営業部、河村部長って・・・。

ひょっとして、ショウヘイの元義父じゃない??!

部長はそのことを知ってか知らずか、じっとショウヘイを見つめていた。

「大丈夫か?」

部長にそう声をかけられたショウヘイは一瞬意識が違うところに飛んでいたようだった。

「はい、多分。」

ショウヘイにしては消極的な返事だと思った。

だってこないだ離婚したばっかりだってのに、わざわざショウヘイの後を追っかけるようにして人事部長のポストにつくなんて。

仕組まれてやしない?

そこまで追っかけて、ショウヘイにプレッシャー与えてどうしようっていうの?