待ち合わせ場所に着いたのは、まだ約束の時間より20分ほど早かった。

このメンバーで待ち合わせてるのに、こんな早く来ちゃって一人張り切ってるみたいでばかみたい。

早く出過ぎたことを少し後悔する。

暇つぶしに、Lineを開いた。

昨日のトモエ、別れ際元気なかったな。

ふと気になってトモエにLineを打った。

『昨日はありがとう。これから例のオーストリアの君と食事です。うちの部長も一緒だけど・・・。また近いうちに会いましょう』

まだ時間があるので、本屋の中に入った。

雑誌コーナーで雑誌をめくる。

本屋の入り口付近で人影が動くたび、気になって見るけど、ショウヘイの姿はまだなかった。

そういえば、あの夜以来、きちんと顔を合わすのは初めてだった。

タクシー代も借りっぱなしになってた。

なんて切り出せばいいんだろ。

キスくらいでドギマギするなって言われそうだ。

「早いね。」

急に後ろから声をかけられた。

振り向くと私がずっと会いたかった彼の姿がそこにあった。

以前と変わらないクールな表情で、何を考えてんだかわらかない目をして立っていた。

濃いグレーのスーツにグレーのシャツを合わせる粋なセンスは営業マンっぽくてほれぼれする。

いやいや、そんなことに感動するより、彼は、何ともないんだろうか。

キスまでした相手と向かい合って。

「お疲れさまです。」

そう言いながら、胸がドキドキしていた。

「あの、こないだの一万円お返しします。タクシー代、ありがとうございました。」

あらかじめ封筒に入れていた一万円を鞄から出した。

ショウヘイはその封筒をちらっと見ると、

「いいんだ。あの日は君に色々と迷惑かけちゃったし。そのまま受け取っといて。」

と言った。

色々と迷惑?

確かにね。

その色々にキスが含まれるのかはわからないけど。

「でも、あなたには借りがたくさんあるから、これ以上増やしたくないの。とりあえずタクシー代だけは返すわ。」

無理矢理彼の手に握らせた。

「これ以上借りを増やしたら、何されるんだか・・・って思ってる?」

彼はニヤッと笑った。

そ、そんなことは思ってないし。

思わず視線を逸らした。

そんな目で見つめられたら、またあの日の夜のことが蘇ってくるじゃない。

顔中に血が上って、頭がくらくらした。