自分でも話しながら、これはひょっとしたら夢かもしれないなんて思っていた。

できすぎた夢。

ここまでは、ね。

ここからが現実なわけで。

「でも、キスしてきたって、すごくない?彼はきっとチサのこと気になってるんだよ。そうでなきゃそんなことしないよ。お酒も入ってないのに。」

トモエがキスって口にしたとき、目の前で握っている大将と目が合った。

うっ。

昼間からこんな話題、しかも他人の大将がすぐ目の前にいる状態で話しにくい。

「場所変える?」

頼んだお寿司は全て平らげていた私達は、大将の視線が気になってお店を出ることにした。

外はまだしとしとと雨が降っていた。

なるべく雨に当たらない商店街を抜ける。

日曜とだけあって、商店街の中も混雑していた。

「きっとどこも混んでるよね。ちょっとマイナーな喫茶店知ってるんだけど行く?」

トモエが行った。

マイナーな喫茶店って。喫茶店って響きが既にマイナーでレトロ感満載だ。

トモエは地下に入って行った。

薄暗い地下道を通る。一気に人の数が減っていく。

その地下通りの隅に、昭和の雰囲気が漂う喫茶店が一件見えてきた。

メニューも昔からあるようなコーヒー、クリームソーダ-。

「ここね、コーヒーとホットケーキがおいしいの。」

これまたホットケーキとは。パンケーキじゃないのね。

薄暗い店内にはたばこの香りがうっすらと漂っていた。

今時禁煙じゃないんだ。

昔の喫茶店のまんま。

「たばこ大丈夫?ここなら顔見知りも来ないだろうし、ゆっくり話せるかなって思って。」

トモエは首をすくめて笑った。

「いいよ。ゆっくり話したいし。でもこんなおじちゃんばっか来そうな喫茶店、よく知ってたわね。」

「まぁね。ある人に教えてもらったんだ。」

ふぅん。その「ある人」にはあまり気に留めず店内に入っていった。

カウンター席が丁度空いていた。カウンター席が一番たばこの臭いが少ないらしい。

少し高めの丸イスに腰掛ける。

トモエがお薦めのコーヒーとホットケーキのセットを頼んだ。

甘いホットケーキの焼ける香りがたばこの臭いと混じり合う。

不思議な空間だった。