次々と旬のネタが乗ったお寿司が握られて目の前に置かれていく。

おしゃべりに花が咲かせながらも、出て来たお寿司は二人とも即座に口に頬ばった。

「おいしい!」

「うわ、新鮮!」

おしゃべりの相づちが全てこの調子。

そのたびに顔を見合わせて笑った。

こういうのって久しぶり。

安心して、相手にのっかってしゃべったり笑ったり。

気持ちは学生の頃に戻っていた。

「そうだ、チサ。オーストリアへ行ったってどこ見てきた?」

サーモンを口に入れながらトモエが尋ねた。

「うーん、実はそのオーストリアが色々あってさ。ほとんど何も見れてないの。」

「え?どうして?」

「ちゃんと観光したのってシェーンブルン宮殿だけ。」

「まじで?シェーンブルン宮殿は確かにすごく素敵な宮殿だけどさ。」

「話、長くなるけど聞いてくれる?」

「もちろんよ。」

トモエはサーモンをごくんと飲み込むとお茶を飲んだ。

私は、オーストリアに行ったいきさつから、空港で置き引きに遭い、見知らぬ男性に泊めてもらったりお世話になったところまでを一気に話した。

「へー。そりゃ、大変だったわね。で、その男性とはその後どうなったの?」

「とりあえず赤の他人としてお互い帰国したわ。名前も素性も知らないまま。」

「もったいない。まぁ若干、素直じゃない男性だけど、結構いい人だったのに。」

「それがさ、」

ここからは、まだ誰にも話してないことだった。

誰かに聞いてもらいたくてしょうがなかったこと。

その男性が、自分の部署に配属されてきて、そして・・・あの日の夜の出来事を声を潜めて話した。

トモエは、目を大きく見開いたまま何度もうなずきながら最後まで話を聞いてくれた。

話が最後までいった時、右手で口を塞いで更に大きく目を見開く。

そして、小さな声でつぶやいた。

「嘘みたい。」