「嘘って言ったのは、結構職場では真面目だし、女の子としゃべってるところも見たことないし。ちょっと信じられなかったのよ。」

マキの目を見ずに答えた。

でも、これも本当のことだ。

あのキスの夜以降、ショウヘイは相変わらず出張が多かったけど、社内にいる時も至ってクールで、クールすぎるほとクールで、真面目に仕事をしていた。

周りの女子社員達が「イケメンだ」ってひそひそ言ってるのも、聞こえてるだろうけど、にやけることもなく、そんな女子達としゃべることもなくひたすら仕事に打ち込んでるもの。

だから、余計に私もあのキスが何だったのかわからない状況だったのよ。

それくらいに、それくらいに、全く女子には興味なし・・・な感じなんだから。

「へー、人事ではさすがにブイブイ言わせられないのかもね。離婚は突きつけられるわ、営業から外されるわで散々だったから、本人もかなり反省してるんじゃない?」

どうして、マキはショウヘイのこといちいち目の敵みたいに言うのかしら。

そんなマキにちょっと腹が立った。

「陶芸の先生もどうだかわかんないわよ?真面目そうに見えて、あの年まで独身なんでしょ?意外と女好きでなかなか結婚まで至らないのかもよ?」

「おっと、言うわね。」

マキがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「言っとくけど、先生はずっと独身だったわけじゃないわ。5年前までは奥さんがいたの。」

「なにそれ。どこから仕入れたのよ、またそんなレアな情報。」

全く、マキの情報量にはいつも驚かされるわ。

「奥さんはね、交通事故で亡くなられたのよ。」

「…そうなんだ、ごめん。」

「澤村と同じバツ一だけど、その意味合いは全然違うんだから。」

マキは前髪をふわっと掻き上げた。

くだらないことで、マキに吹っ掛けた自分を悔やんだ。

金曜日の夜は、気持ちが浮き足立つ。だからこそ、余計な事を言う時は普段以上に気をつけなくちゃならない。

そういえば、ショウヘイとのあの夜も金曜だったっけ。

「チサもなかなか口を割らないわね。今までならすぐに私に泣きついてきたのに。好きなんでしょ?彼のこと。」

「違うって。」

そう返しながら、息が詰まるほどに胸が痛くなった。

マキに嘘をついているということ、そして、得体の知れないショウヘイに恋をしてしまっているということに。