な、ない!!?

足下に置いた旅行バッグが!!

やば、置き引き?!

焦って周りを見渡すと、わずか10メートル先に私のバッグらしきものを抱えて走り去る人影が見えた。

「ストーップ!!プリーズ、ヘルプ、ミー!」

とっさのことだったのに、思わず英語で叫んでる自分に一瞬感心する。

いやいや、悠長に感心している場合じゃない。

鞄を抱えてる人物を見失いそうになりながらも必死に走る。

だめだ。

完全に運動不足。足がもたついて転びそうになる。

みるみるその人影は遠くなり、視界から消えた。

嘘でしょー!!!

こんなことってある?

ついてなさすぎやしない?

神様の馬鹿-!!

心の中で叫んで、その場にへにゃへにゃと座り込んだ。

どうしよう?

着がえとか財布、カード、全部もってかれちゃったよ。

心配性の性格が幸いして、腰にパスポートと帰りの飛行機のチケット、そしてわずかばかりのお金だけは巻き付けてあった。

だけど、帰りの飛行機は5日後だ。

それまで、こんなわずかなお金でどうすりゃいいの?

食べるくらいはなんとかしのげても、どこで寝泊まりすりゃいい?

あまりのツキのなさに、笑えてきた。

あー、やっぱり慣れないことするんじゃなかった。

海外なんて、簡単に行って帰ってこれる場所じゃないし。

「どうかしました?」

その時、座り込んだ私の頭上から声が聞こえた。

ん?

これはドイツ語でも英語でもない。

私に理解ができるということはジャパニーズだ!

助かった!すがるような気持ちでその声の方を見上げた。