「裏表がないっていうか、素直っていうか。単純っていうか。」

「最後の一言はいらないわよね。」

ショウヘイは、くすっと笑って言った。

「ほら、そういうとこ。言いたいことを何の躊躇いもなく、それだけ素直に言える人ってなかなかいないと思う。」

「それは褒められてるのかしら。」

「褒めてるさ、そういう不思議な空気感。自分までつられて何でも言っちゃいそうになる。」

「言っちゃいそうに、じゃなくて言っちゃってるじゃない。」

「そうだね。」

「言わなくてもいいような余計な一言もたくさん言ってくれてるけど。」

彼は笑いながらコーヒーを飲んだ。

彼の笑った顔、嫌いじゃない。

「君の一言は、時々ハッとさせられるよ。今回は、ちょっと救われた。ありがとう。」

ありがとう・・・。

彼の口からありがとうが聞けるだなんて思いもしなかった。

嫌われるの覚悟で、ぶちまけた言葉だったのに、感謝されてる?

あの場面からどうしてこんな展開になっちゃったんだろ。

そういう展開に持って行ったショウヘイの方が不思議な存在だと思うわ。

少しずつ、自分が抱いていたショウヘイのイメージが変わっていくのを感じていた。

あと少しのビールを飲み干しながら、フロアの時計に目をやる。

「やば!見て、時計。」

ギョッとしてショウヘイに声をかけた。

彼も腕時計に目をやった。

「まじか。終電ぎりぎりだな。」

時計は23時半を指していた。

「私はもう終電終わっちゃってる。タクシーで帰るしかないわ。」

ショウヘイが上目遣いで私を見つめた。

「・・・俺んち泊まる?」

「は?」

オーストリアの情景が蘇る。

ショウヘイの目はあの時よりも優しくじっと私の目を捕らえて離さなかった。

「一緒に泊まるのは初めてじゃないし、君もどってことないだろ?」

どってことない?

ここは日本よ。

彼との関係は、明らかに以前とは違ってる。

赤の他人ではないわけで。

頭の中がぼわーんとして、思考回路が鈍っていた。

お酒に酔ってるわけじゃない。

ショウヘイの言葉に酔ってる自分がいた。

いけない。

私が今判断を間違えたらえらいことになる。

今、セーブしなくちゃなんない。

バツ一、結婚に興味のないクールガイ、澤村ショウヘイのこと、気になり始めてる自分に。