「違うよ。彼女の方さ。」

「えー!女の人の浮気なんて聞いたことない!」

「そんなことないさ。社内でも結構いるみたいだぜ。」

「信じられない。」

ショウヘイが結婚に嫌気がさした理由が少しわかったような気がした。

「まぁ、そこに至るまでに色々とあったんだけどさ。元はといえば、俺が出張や残業で不在になることが多くて寂しかったのかもしれない。俺なりに努力して顔を合わす時間を増やすようにしたつもりだったんだけど、相手には伝わらなかったみたいだ。きちんと向き合って話合わなかったのは俺のせいだと思う。だからどっちがいい悪いはないよ。相手を責めるつもりもないし。別れたのは、お互いの努力不足だった。」

「そう・・・。お互いの努力不足、ね。」

「俺も何でこんな話君にしてんだろ。ごめん。勢いついでに話しちゃったけど、この場で忘れて。」

彼はそう言うとすくっと立ち上がって、コーヒーを入れに行った。

「でも、誰かに聞いてほしかったんでしょ。今の話。」

彼の声がお茶室から聞こえてきた。

「どうしてそう思うんだ?」

お茶室に向かって答える。

「だって、本当に辛い時や言いたくない話ほど、誰かに聞いてもらったら安心するの。自分一人で抱えてるのっておかしくなりそうじゃない?話せば、その辛さが半分抜け落ちるような気がする。」

「君は誰かに話すの?」

「話すわ。だからあなたも本当は誰かに聞いて欲しかったんじゃないかって思ったの。特にこんな話、誰にも言えないもの。」

コーヒーを手に持って彼はゆっくりとまた私の前の席に座った。

「君って不思議な人だね。」

「不思議?」