「君の言ってることの半分は当たってるかもしれない。まぁ君の言い方はあまりにも稚拙で端的には表現できてはいないけれどね。」

ちっ。

また余計な一言を付け加えてくれてる。

「オーストリアでは、まさか君が異動先にいるなんて思いもしなかったから。愚痴をこぼしたことは認めるよ。だけど、彼女と別れたことが原因で今まで十分実績を納めてきた営業部から外されて人事部に飛ばされたことは事実なんだ。営業部の部長だったからね、彼女の父は。役員っていう立場もあったんだろうと思う。それはわかるよ。だけど、俺は俺なりに営業部で真剣に会社のためにやってきたっていう事実まで消されてしまったようで辛かった。営業から外されてたってことは、俺のこれまでの仕事の評価も彼女に繋がっていたからもらえてたものであって、実力じゃないみたいに思えてきてさ。」

彼は前髪を掻き上げた。

すぅっと爽やかなオーデコロンの香りが私の鼻をかすめた。

うつむく彼の横顔を見つめる。

すっと高い鼻。

長い睫。

切れ長の目。

余計なことさえ言わなければ、誰もが目を見張るイケメン。

なのに、たった一度の離婚で自分の今まで築き上げてきたものが全てなくなってしまった。

そこまでの自信はどこからくるの?

いつもならそこで突っ込むところだけど、今は突っ込もうなんて思わなかった。

ちっとも彼の言うことに腹が立たなかった。

彼が私の方に視線を上げた。

その疲れた切れ長の目に胸が震えた。

「俺が別れを決意した理由って何だと思う?」

彼は尋ねた。

「わ、わかんないわよ。性格の不一致、とか?」

彼は少し笑った。

「相変わらず、通り一遍の単純な回答するよね。」

ふん。

なんだか私、さっきから彼に振り回されてない?

ドキドキしたり腹が立ったり、同情したり、感心したり・・・。

「決定打は、浮気。」

「あなたの?それこそ通り一遍のよくある話だけど。」