うわー、おいしい。

だけどこんな小さいコップ一杯じゃ、少なすぎるわ。

ミユキと笑いながら、ビュッフェコーナーへ急いだ。

その時、

「村上さん!」

さっき壇上で挨拶をした岩村課長が慌てた様子で私を呼ぶ声が聞こえた。

声の方を振り返ると、岩村課長が少し離れたところから手招きしている。

「もう!せっかく美味しい料理を食べようと思ってたのに。」

ミユキの耳元で小さい声で愚痴ると、

「はいはい!」

と気前よく返事をして課長の方へ小走りで向かった。

「あのさ、皆の食事が落ち着いたら山田くんと澤村くんにまずは挨拶をしてもらおうと思ってるんだけど、澤村くん、まだこっちに来てないんだけど、何か聞いてる?」

「え?まだ来てません?」

慌てて周囲を見回した。

本人には今日の詳細は連絡入れてるはず。

「今日は澤村くん出張だったよね?」

「ええ、S市で開催されてる自己啓発セミナーを受講されたと思うんですけど、16時には終わってるのでそのままこちらに向かえば間に合うはずなんですけど。」

「おかしいな、ちょっと連絡とってみてくれる?」

「連絡?」

ショウヘイの連絡先は会社に戻らないとわからなかった。

「悪いんだけど、一度会社に戻って電話かけてみてくれない?いつもすまんなぁ。このお礼は今度たっぷりさせてもらうからさ。」

ちっ。

思わず心の中で舌打ちをした。

お礼なんかいらないし!

おいしいお料理がたくさん並べられた会場で、まだ一口も食べてない。

それに、また会社に一人でもどれって?

澤村ショウヘイも何やってんのよ!今日が大事な自分の歓迎会の日だってことくらいしっかり頭に入れとけっての。

「ごめん!一旦会社に戻らなきゃなんないの。先食べといて-。」

私とビュッフェを楽しもうとお皿を持って待っていたミユキに伝えると、いつもより強く地面を踏みしめながら、会社へ戻って行った。