マキは以前からあの大きな目で人を見透かすかのような言い方をするんだけど、最近のマキはとりわけそれがグレードアップしているような気がしていた。

悟りを開いた修行僧のような達観した物言いと落ち着き。

とても私と同じ年とは思えない時がある。

何かあったんだろうか?と思わずにはいられないけど、普段のマキは至ってこれまでと同じちょっとおしゃれでチャーミングな女性だった。

現にまた「陶芸」やりたいなんて、突飛な提案してくるくらいだから。



人事部フロアに戻ると、「村上さん!」と早速岩村課長に呼ばれた。

「はい!」

返事をすると、課長のデスクの前に急いだ。

「お昼から戻ってきて早々悪いんだけど、急遽お願いいたいことが発生して。」

「何でしょう?」

「山田くんと澤村くんの歓迎会って、もう手配してくれてたっけ?」

「ええ、今週の金曜日にグランホテルに予約入れてます。」

「実は、明日公示されるんだけどね、うちの松阪人事部長、今月いっぱいで退職されることになってね。」

え??

嘘でしょう?

「まぁなんでも私的な事情らしいんだけど、僕もさっき部長から聞いて驚いてることろなんだ。で、金曜日の歓迎会を急遽歓送迎会に変更にしたいんだ。部長への送る言葉を何人かにお願いしてもらうのと、お花の手配だけ追加で頼む。」

松坂部長は、人事部長のわりに気さくで、分け隔てなくて、信頼のできる人だった。

えらそうなところも全然なくて、「俺は人事部向いてないよ」なんて、飲み会の席でいつも笑って話してくれていた。

もともと営業あがりの部長は、人事に関しては色々と思うところもあったようで、いつかはまた人事部長から別の営業部の部長にうつって役員に昇格していく人なんだろうなぁと漠然と思っていたのに。

こういう人こそ、人事にいてもらいたいのに、あまりに急な退職に私も驚きを隠せなかった。