「人事部だったら、なんとなくわかってんだろ?俺が異動になった理由。」

ふいに彼は私の方を見て言った。

「理由までは知らない。」

「そっか。」

その「そっか。」は安心した「そっか」なのか、知っててほしかった「そっか」なのかどっちだろう。

「あなたの仕事が少し落ち着いた頃、お茶でもご馳走するっていう約束、きちんと果たさせてね。」

ショウヘイは私を一瞥すると、ふっと口元をゆるめた。

「もういいよ。これから人事部の仕事も色々教えてもらわきゃなんないし。それでチャラになるだろ。」

「それとこれとは別だわ。」

どうして、そんなにムキになってるのか自分でもわからなかった。

オーストリアで会ったショウヘイと、今のショウヘイはなんだか少し違うような気がしていた。

今はなんだか一回り小さく見える。

背丈とかそういうのではなくて、オーストリアに半分魂を置いてきたんじゃないかって感じ。

ショウヘイは軽く笑うと、何も返事をせずにお茶室を出て行った。

せっかく心配してあげてるのに。

ほんと失礼しちゃう。

そう思いながらも、何も返事してくれなかったことにショックを受けてる自分がいた。

せっかく再会したのに。

別れ際もあっけなかったけど、再会もあっさりだった。

彼って、一体何なのかしら?

軽くため息をつくと、お茶室を出て自分の座席に戻った。