「また会っちゃったね。」

ショウヘイはコーヒーを注ぎながら、小さな声で言った。

その小さな声は、私達だけの秘密めいていて、なんだか緊張した。

彼の横顔はつい最近、とても身近に間近に見ていたものだ。

あの時と違うのは、今のこの信じられないような状況設定と、彼がぴりっとしたスーツを着ていること。

背の高い彼は濃紺のスーツがよく似合っていた。

こいつとはなぜかあり得ないような状況で遭遇する。

変な因縁でもあるのかと疑いたくなるくらいだ。

「えっと、村上さんだっけ。」

「はい。澤村さん。」

その途端、ショウヘイはコーヒーを飲みながら吹き出した。

「な、何がおかしいんでしょう?」

「あれだけ一緒にいたのに、初めてだよね、名前呼び合ったの。」

「それは、あなたがそうしようって言ったからでしょう?それに、今は赤の他人なんだから、そんな慣れ慣れしい事言うのやめてもらえません?」

緊張が解けないからか、私の口調はいつも以上に喧々していた。

それに、やっぱり彼と5日間も一緒に泊まっていただなんて、社内の誰かに知られたら大変なことだ。

って、マキには言っちゃってたよ!

やば。

マキには、ショウヘイがオーストリアの彼だってこと黙っておこう。

「あれだけ世話になっといて、えらくきついこと言うよな。」

ショウヘイが真顔で私を見下ろした。

た、確かに。

「もちろん、お約束した通り、偶然再会したからには、遅かれ早かれきちんとお礼させてもらいます。その節はありがとうございました。」

お茶を両手で持って、軽く頭を下げた。

どうも、こいつと話してるとぎこちなくなる。

スーッと感情が流れていかないというか、言葉が生まれないというか。

きっと奴の言葉の端々に私のイライラのツボがあるんだと思う。

「いやー、すっかり打ち解けたみたいだねぇ。」

そこへ、岩村課長がにこにこ上機嫌で入ってきた。

また、えらいタイミングに入ってくるもんだ。