ゆっくりと岩村課長から視線をずらしていく。

まずは山田さん。

「村上さん、何もわからないので、色々教えて下さい。よろしくお願いします。」

山田さんはにこやかに微笑んで私に会釈をした。

私もペコリと頭を下げた。

そして、

「どうぞよろしくお願いします。」

聞き覚えのある声がその横で響いた。

ゆっくりと声の方に顔を上げる。

澤村ショウヘイとしっかり目が合った。

紛れもなく、あのオーストリアでお世話になった彼だった。

ショウヘイは、私を見ても驚いた様子もなく、平然と立っていた。

もう忘れちゃったんじゃないの??

私がこんなにも動揺してるってのに。

それはそれで、少しショックだった。

「じゃ、村上さんよろしく。」

岩村課長は私の肩をポンポンと叩くと、会議室を出て行った。

うそでしょー。まだ心臓飛び出しそうなくらいパニクってるんですけど!

しかし、私もこの人事部フロア女子の中ではベテランの方だ。こんな場面であたふたしてたら格好悪い。

「・・・じゃ、まずコピー室案内しますね。」

できるだけ平静を装って、表情を和らげた。

「村上さんて、何年目ですか?」

その時、ショウヘイが余計なことを質問してきた。

やっぱり、奴はややこしい。

オーストリアの日々が蘇ってくる。

「えー。ご想像にお任せします。」

私はにっこり微笑んでショウヘイの方を見た。

ショウヘイも意味深な笑みを浮かべてこちらを見ている。

やっぱり。

やっぱり気づいてる。

でも、日本ではお互い赤の他人として出会ったわけで。

女優でもなきゃ難しいって・・・。

人事部フロア内をざっと案内して、山田さんは労務課長に引き渡した。

そして、教育課のショウヘイは今、私と二人きりでお茶室でお茶を入れていた。