私はこの5年もの間、こんな薄っぺらくて情のないアホ野郎と一緒に笑い合ったり、時には喧嘩したり、でも仲直りして抱き合ったり、キスしたりしてきたの?

まるでドラマの1シーンを見ているかのごとく他人事のような気持ちで、黙りこくっているタカシを見つめていた。

今日はプロポーズされるだなんて、変な期待してた私ってばっかみたい。

そういえば、こないだ同期のマキに「5年も付き合ってるって、ちょっと長くない?」なんて言われたっけ。

色んな思いが、走馬燈のように頭の中を一瞬で駆け巡る。

大きく深呼吸をした。

「タカシ。実はね、今日あなたにプロポーズされんじゃないかって、少しだけ、ほんの少しだけ思ってたの。」

タカシはようやく視線を上げて私を見た。

怯える子ウサギのような目をして。

「だけど。」

私はその子ウサギ目がけて言った。

「あなたみたいな薄情な人間が私のフィアンセにならなくて、本当によかった。」

タカシはうつむくと、小さな声で再び「ごめん。」と言った。

「私は、あなたよりいい男とぜーったい幸せになってみせるから!」

自分でも驚くほど大きな声で言った。

静かなラウンジに私の声が響いてる。

数人のお客達が好奇の目で私の方を見た。

私はそんな好奇の目もおかまいなしにすくっと立ち上がると、「さようなら!」と言ってラウンジを後にした。

もうどうでもよかった。

残されたタカシがどんな気持ちでどんな表情をしてようが。

ラウンジのお客達や店員に、どう思われようが。

ただ、情けないのは、あんな奴でもやっぱり愛してたっていう気持ちが完全に消し去れなかったってこと。

この年にもなって、あんなえげつない振られ方をしたってのに。

そんな情けない気持ちから逃げるようにエレベーターに飛び乗った。

ガラス張りのエレベーターから、妙に美しい夜景が私の目に映る。

「嘘でしょ。」

小さくつぶやいた。