庭は、午前の眩しい日差しが緑と花の色をより際立たせていた。

団体の観光客が、自由時間を楽しんでいる。

穏やかな空気。

鼻からすぅーっとその空気を胸一杯に吸い込んだ。

バラだろうか?ほのかに甘い香りがする。

どこまでも続く庭園内のまっすぐな石畳の道。でも飽きることはなかった。

私に合わせてくれているのか、彼の歩みの速さはとても丁度いい。

「この国に来てよかった。」

つぶやくように言った。

「到着早々置き引きにあって、こんな得体のしれない男と一緒に泊まることになったのに?」

彼は前を向いたまま、かすかに笑った。

「ま、まぁ、それは置いといて。とても落ち着く場所だもの。ここは。」

「そうだね。その意見だけは、唯一君と一致する。」

唯一、ね。

相変わらず減らず口をたたく奴だと思う。

だけど、彼と出会えたことも、なんとなく自分の中の何かが変わるきっかけになったような気がしていた。

「君が焦がれている結婚とやらがめでたくできたら、またここに新婚旅行で来ればいいさ。」

「そうね。きっとそうするわ。」

本当にそう思っていた。

「あのね、やっぱりこれだけあなたにお世話になって、このまま日本に帰って赤の他人に戻るのは気がひけるの。」

「いいよ、別に。」

「せめて、日本に帰って、きちっとお礼をさせてもらって、それから赤の他人に戻るっていうのはどう?」

彼は私を一瞥すると、軽く笑った。

「そういうのは赤の他人とは言わないけどね。」

「確かにそうだけど。」

「いいんだ、本当に。ま、もし、日本に帰って、偶然、どこかで君と会った時は、・・・その時は赤の他人としてではなくオーストリアで知り合った人ってことで、お茶の一杯でもご馳走になるよ。」

彼は頑なだった。

「いいの?本当に?」

「いいって。俺も今日は一人で観光せずに済んだし、助かったところもあるから。」

頑なだし、一言多いし、嫌味な表情をする、自分とは対照的な価値観を持ってる彼だけど、悪い人ではなかった。

名前も年齢も住んでる場所も、何も知らないこの相手と、この4日間不思議な縁で結ばれていた。

人生、30年も生きてると、こういうこともあるのね。

そうして、私達は、1時間半かけて、庭園を一周すると宮殿を後にした。