「シェーンブルン宮殿。」

彼は青空に生える黄色い宮殿を見上げながらつぶやくように言った。

その黄色は、淡く品のいい色をしている。

派手でもなく地味でもなく、そこかしこに黄金の装飾が施されて、気品のあるゴージャスな宮殿だった。

シェーンブルン宮殿。

来る前に、雑誌で読んだような気がする。

「ハプスブルグ家の夏の離宮だったんだ。」

「ハプスブルグ家?」

「マリアテレジアは聞いたことあるだろ?」

「ああ、マリーアントワネットのお母さんね。」

「うん。ハプスブルグ家がウィーンを帝都として栄えさせていたんだ。ヨーゼフ一世に嫁いだエリザベートも有名だから知ってるんじゃない?」

「エリザベートも聞いたことあるわ。」

少しずつその場所が、歴史ある、すごい人達が生活していた場所だという実感がわいてきた。

「それにしても、この庭園すばらしいわよね。」

噴水や緑と美しい花々が咲き誇る庭園は、日本では見られないほどの規模だった。

「庭園の端から端まで歩いたら、1時間はかかるよ。」

「本当に?」

「ああ。それに、この庭園の中には動物園まであるんだ。ハプスブルグ家がどれほどの力を持ってたかわかるだろ。」

わかるっていうか、私みたいなちっぽけな人間にはその偉大さも力もわからないけど、ただすごいってのは感じる。

宮殿と庭園に圧倒されてしばらく見入ってしまった。