彼の喉の奧をビールが流れる音がする。

「ふぅ。」

彼は短く息を吐いた。

そして、

「・・・ったく。参ったな。」

とういう小さなつぶやきが聞こえた。

ああ、やっぱり。

私は彼に背を向けて寝ているけれど、彼はそんなことをぼやきながら、ビール片手に私を見てるんだろう。

そう思ったら、背中がどくどく熱く脈を打った。

ますます眠りにつけない。

体中がなぜか火照っていた。

ビールを飲み過ぎたんだ。きっと。

余計なことを色々考えてしまう。

何日か一緒に泊まってたら、・・・なんてことがないとは言い切れない。

そうしたら、私はどうする?

赤の他人となんて、そんなことできないし。

無理矢理だなんてことになったら、れっきとした犯罪よね?

だとしたら通報する?

こんなにお世話になった彼のことを通報できる?

ふと、見かけによらずたくましい彼の腕を思い出す。

いくらなんでも、いい大人の男女が同じ部屋で何日も何もないなんてことあるはずがない。

思い切って、明日この部屋を出て行こうか。

それとも、もし、もしよ?

そういう風な雰囲気になったら、一度くらいはこの旅の思い出ってことで許しちゃう?

どうせ、日本に帰ったら二度と会わないんだから。

・・・って、私何考えてるの?

彼はそういう人じゃないって安心して帰ってきたじゃない。

まるで、私の方が期待してるみたい。

何馬鹿なこと考えたんだろう。

ああ、やだ。

一瞬で頭の中の妄想をかき消した。

彼がまた立ち上がって移動する音が聞こえて、慌てて目をつむる。

パチン。

急に部屋の中が真っ暗になった。

真っ暗な部屋に、私と彼と2人だけ。

彼は・・・。

自分の布団に入る音がする。

そして、ほどなく彼の静かな寝息が聞こえてきた。

嘘・・・。

あっさり寝ちゃった?

こんな年頃の女性を隣にして?

ホッとしなきゃなんないのに、ほんの少しだけがっかりしていた。

馬鹿みたい。

私も寝よ。

布団を頭の上まで引き上げた。